家族でいった旅行の代金、経費にできないかな?
家族だって社員なんだし、慰安旅行してもいいよね?
そうお考えの方へ向けた記事です。
当記事では、家族だけで行った社員旅行(慰安旅行)が経費になるか、解説しています。
読むとつぎのようなことがわかりますよ。
- 経費になるか
基本的にはなりませんが、場合によってはなることもあります。商売を行うにあたって必要な旅行であると、客観的に判断できることが重要です。 - どのような旅行だと経費にならないか
個人事業主と税務署が名古屋高裁まで争った事例をもとに解説します。 - 経費にするにはどうしたらいいか
その必要性を客観的に判断できるだけの資料を残しておきましょう。
目次
【原則】家族旅行は経費にならない
基本的に、個人事業主や同族会社の役員だけでの家族旅行は、経費になりません。
- 業務と関係ないプライベートな支出(家事費といいます)として扱われます。
- 家事費は経費として申告できません。
- 法人が役員に、現物(旅行)給与を臨時に支給したものとして扱われます。
- 臨時の役員給与は、経費として申告できません。
- 現物給与なので、役員にはバッチリ所得税と住民税がかかります。
▼現物給与として、税金がかかってしまうんです▼
旅行代金が経費として認められないのは、その旅行が事業を行うにあたって直接必要なものではないためです。
家族のみで行く旅行って、だいたい次のような目的がありますよね。
- 家族の思いでを作りたい
- 良好な家族関係を築きたい
- 子供に新たな体験をさせてあげたい
つまりは、純然たる観光旅行なわけです。
はたしてコレが、商売を行うにあたって必要なものと言えるでしょうか?
いや、こじつければそのように主張することはできるでしょう。
とか
とか。
ただ、ソレって主観的すぎるんです。
というか、観光目的の家族旅行が経費になるなら、家族と幸せに暮らすための生活費全般、経費にできるという結論になりかねません。
それってやっぱりおかしい。
「事業遂行上必要なものか」が判断基準となる
経費とするためには、客観的に、一般常識で考えて、その旅行が事業遂行上必要であるかどうかを判断しなければなりません。
裁判所や税務署、税理士はよく「社会通念上一般的に行われているものかどうか」という言い方をするんですけどね(覚えなくていいです)。
具体的には、次のような基準を総合的に照らし合わせて判断します。
- 趣旨目的
事業に関係する目的か(調査、研修、取材、など) - 旅行先
観光地か、それ以外か - 日程
一般的に行われる程度の長さか - 参加者
特に、家族以外の第三者(従業員、取引先など)がいるかどうか - 費用の負担割合
会社や事業主の負担している割合が少ないほど経費になりやすい
以下、これらの基準に照らして、家族旅行が経費にならなかった事例を紹介します。
経費として認められなかった、実際の例
看板製作業を営む個人事業主の家族旅行が経費にならなかった事例です。(名古屋高裁判 平成7年 税務訴訟資料第208号1089頁)
との判決がなされました。
- 参加者は、夫(個人事業主)、妻(青色事業専従者)、その子供二人(学生)
- 子供の夏休み期間中に、軽井沢へ家族でかけた
- ホテルや有料道路、飲食、美術館などの料金のうち、夫婦の分だけを経費にした
個人事業主側が「経費に該当する理由」として主張した内容(左側)と、それに対する裁判所の判断(右側)はつぎのとおりです。
- 日頃から事業に専従し苦労している妻の心身を慰労し、その勤労意欲を高めることを目的とした旅行だ
- 事業に無関係とは言えない(軽井沢の自然や美術鑑賞がデザインに関するアイデアや知識蓄積のために役立つ可能性が高い)
- 家族経営の個人事業者のレクリエーション費用を経費として認めないのは、法の下の平等に反する(多数の従業員を有する事業者や、法人と比較して)
- 客観的には、夫婦・親子がその良好な家族関係を維持発展すべく企画実行したものであり、使用者の立場で従業員の勤労意欲を高めるといった経済的合理性に基づき主催したものではない
- 美術鑑賞等により事業に必要な知識経験を得ることを目的として行われたものではない
- 同様の家族旅行は、多数の従業員を有する個人事業者でも経費にはできないし、法人においても福利厚生費とする合理的な理由はない
結局のところ、家族の親睦を深めることが旅行の主目的であると認定されたのです。
事業遂行に必要ではない旅行なのですから、経費にはできませんね。
【例外】業務遂行に必要な旅行ならば経費になる
家族だけの旅行であっても、業務遂行に必要なものであれば、経費にすることはできます。
経費に出来ないのは「家族の親睦を深めること」が目的だからです。
それ以外に業務遂行上の目的があり、客観的に見て必要なものであれば、経費に出来ない理由がありません。
たとえば、家族だけで行った旅行でも、つぎのような目的があれば、旅行代は経費になるといえるでしょう。
- 市場調査のため
- 競合調査のため
- 試験研究のため
- 研修のため
- 取材のため
- 商談、営業開拓のため
ここで、大事なことが2つあります。
それは、「事業に関係する部分だけを経費にしているか」と「本当にそういう目的があったのか」です。
経費に出来るのは、事業遂行に必要な部分だけ
いかに事業遂行上必要な旅行といえど、経費にできるのはその必要な部分だけです。
事業目的とそうでない目的が混ざっている場合には、事業目的の部分しか経費にできません。
例えば、うどん屋さんを例にとって考えます。
この場合、事業に関わっていない子供二人分は経費にすべきではありませんし、調査研究を行わなかった日数分(3日間)についても同様です。
このように、家族旅行を経費にしようとおもったら、事業に必要な部分だけを抜き出して計算せねばなりません。
ほんとうに、胸を張って、事業目的で行ったと言えるか
経費にするためには、その旅行が本当に事業目的で企画されたものだという、事実が必要です。嘘はいけませんからね。
観光目的で讃岐うどんの名店めぐりをしたにも関わらず、後づけで「あれは調査研究目的であった(`・ω・´)キリッ」と嘘をついたり、こじつけたりするのはNGです。
ほんとうに、胸を張って、事業目的で行ったと言うからには、次のような証拠書類を残しておきましょう。
- 旅行の企画書
- 現地の写真や動画
- 訪問先のパンフレット
- 現地でもらった名刺
- 旅行の報告書
こういった書類が、「事業目的で行ったんだ」という貴方の主張を援護してくれます。
まとめ
家族旅行が経費となるかどうかについて、お話しました。
- 経費になるか
基本的にはなりませんが、場合によってはなることもあります。商売を行うにあたって必要な旅行であると、客観的に判断できることが重要です。 - どのような旅行だと経費にならないか
個人事業主と税務署が名古屋高裁まで争った事例をもとに解説します。 - 経費にするにはどうしたらいいか
その必要性を客観的に判断できるだけの資料を残しておきましょう。
結局のところ、経費にできるかどうかは、常識的に考えて判断することとなります。
家族と宿泊した竜宮城スパ・ホテル三日月の宿泊費を会議費として収支報告していた都知事が、かつていましたね。
アレがなぜ叩かれたかといえば、やはり「常識で考えて」なんです。客観的に、そりゃ純粋にプライベートな楽しみだろと。
事業においても同じです。後ろめたいことはやめるが吉ですよ。
この記事を書いたひと
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税理士・1級FP。個人事業主や中小法人の税金のお悩みを解決したり、会計処理・税務申告の代行をやったりしています。 freeeが超得意で導入支援の実績多数。一般の方向けのやさしい税務解説記事を書けるのが強みです。詳しいプロフィールはこちら。
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