本日(2020年5月27日)、前澤友作氏をめぐる報道がSNSやネットニュースを大いに賑わしています。
前澤友作氏の資産管理会社「株式会社グーニーズ」および前澤友作氏個人が、東京国税庁から申告漏れを指摘されたというのです。
私は逃げも隠れもしないし、税務処理の方法でご指摘があれば、惜しまず税金払いますので、税金はどうか有効活用願います。
— Yusaku Maezawa (MZ) 前澤 友作 (@yousuck2020) May 27, 2020
早速提案です。
国民の秘密が特定の新聞社に秘密裏にリークされることのない安心して暮らせる国家の実現を希望します。
あと「前沢→前澤」です。https://t.co/Df7jtG9wy0
これに対しネット上では、あたかも前澤友作氏が脱税したかの如くおっしゃる声も聞かれます。
結論から言えば、脱税などと呼ばれるようなものではないのですが・・・。
そこで当記事では、本件について税理士が解説いたします。
申告漏れとは
「申告漏れ」とは、所得金額や税額が過少に申告されている状態や申告自体がされていない状態のことをいいます。
おおむね、つぎのような理由で起こりうるものです。
- 収入として申告すべきものが申告されていなかった
- 経費として申告できないものが申告されてしまっていた
- 計算誤りがあった
- 申告が必要だという認識がなかった
なお「所得隠し」とか「脱税」といわれる行為も過少申告には変わりないのですが、次のような点で異なります。
- 悪意はない
- 意図的ではない
- 事実を誤認している
- 法律解釈について国税側と認識が異なる
- 悪意がある
- 意図的である
- 事実を仮装隠蔽している
- 法律解釈以前の問題
今回の報道においては「申告漏れ」と伝えられています。
これは、グーニーズ社および前澤氏個人に悪意などが認められなかったことの現れであると言えるでしょう。
修正申告とは
修正申告とは、当初申告した内容を修正して申告しなおすことです。
国税から指摘される前に過少申告に気づいた場合や国税からの指摘を認めた場合に、自らの意思で行います。
なお修正申告と似たものに「更正」とか「決定」と言わるものがあります。
これらは税務署長によって本人の意思とは関係なく税額を変更したり確定したりされる手続きです。
修正申告とは、次のような点で異なります。
- 自らの意思で申告内容を修正する
- 異議申し立ての機会は与えられない
- 間違いに気づいたときや、指摘を受け入れるときに行う
- 税務署長により申告内容を変更、確定する
- 異議申し立ての機会が与えられる
- 指摘に従わないときに行われる
つまり修正申告をしているということは
と言っているようなものなのです。
また見方を変えれば、国税側が自主修正の機会を与えたとも捉えられます。
これがもし査察のような脱税調査であれば、自主修正の機会など与えられるはずもありませんので。
本件についてグーニーズ社および前澤氏個人は、報道時点で既に修正申告済みとのことです。
国税からの指摘を受け入れて、素直に申告をやり直したということですね。
資産管理会社とは
資産管理会社とは、その名のとおり資産を管理することを目的として設立される会社のことをいいます。
資産家や上場企業オーナーが設立する、いわゆるプライベートカンパニーのことです。
おおむね、つぎのようなメリットがあります。
- 節税になる
所得税と法人税の税率の開差などによって、税負担を合法的に軽減できます。 - 相続対策になる
株式などを生前に少しずつ贈与できる、相続税評価額を圧縮できるなどの利点があります。
株式会社グーニーズの採用・求人情報とされるWebページ(2020年5月27日17時現在、閲覧できません)には、事業内容として以下のとおり記載されていました。
有名資産家の個人資産運用とプロジェクト推進をメインで行っている会社です。また、旅行・出張等ほか各種プライベートの手配も行っています。
資産管理にとどまらず、マネジメント会社的な性質も備えているようです。
そんなグーニーズ社、報道によると2016年頃に約70億円でボンバルディア製プライベートジェット機を購入し、駐機場代や整備費用は同社が負担していたのとこです。
私的利用とは
私的利用とは、会社が所有する資産を役員などがプライベートな目的で利用することをいいます。
たとえば法人が取引先との接待用に購入したクルーザーを、役員が事業とは関係ない友人や交際相手とのレジャーに使用していた場合などが考えられます。
なお私的利用が悪いとかいうことではなく、利用者が利用料相当額を負担していれば税務申告上は特に問題ありません。
報道によると前澤氏は、グーニーズ所有のプライベートジェットを私的な海外旅行などで頻繁に利用し、その利用料として維持管理費用の一部を負担していたのことです。
そもそもグーニーズ社の事業内容には「旅行・出張等ほか各種プライベートの手配も行っています。」とあります。
前澤氏の私的な用事について手配することが事業なのですから、会社所有のジェットとはいえ私的利用して当然とも考えられますね。
問題になりうるとしたら、その事業に対する対価のやり取りがあったかどうかです。
5億円の申告漏れとは
国税局は今回、5億円の申告漏れを指摘しました。
この金額は、つぎの2つの金額の差額(過去3年分)として計算されたものです
- 国税局が指摘する、利用料として負担すべき金額
おそらく、1日あたり利用料(一般相場か、もしくは購入費用+維持管理費用から算出)×利用日数の実績で求めたと思われます。 - 前澤氏が利用料として負担した維持管理費用の金額
おそらく、利用回数に関係なく負担していたものと思われます。
つまりプライベートジェットの利用対価についての認識が、国税庁と前澤氏とで相違したということです。
わたしの税理士としての実務経験上、こういった「認識の違い」は本っっっ当にありふれて起こることで、まったく珍しくありません。
ただ、金額規模が半端じゃないですけどね・・・。
指摘をうけるリスクは間違いなく高いので、利用料相当額についての考え方を整理した上で国税庁に事前照会をかけたほうが良かったんじゃないかなと思います。
前澤氏個人の申告漏れについて
本件ではグーニーズ社のみならず、前澤氏個人についても絵画の売買などで得た利益にかかわる申告漏れが指摘されました。
新潮社の報じるところによると、次のような背景があったそうです。
「過去5年間での多数の美術品の売買取引のうち、1点の絵画の売買取引について、東京国税庁(ママ)から税務処理の方法についてご指摘がありました。ご指摘に基づき9914万898円の所得申告、並びに4054万600円の納税を行いました。過少申告税588万円並びに延滞税については、今後納税する予定です」
売却した1点の絵画の評価益計上を人為的ミスによって誤って処理していたために起こった「申告漏れ」だという【後略】
人為的ミスっていうのが誰のミスなのかはわかりませんが、申告実務に携わる我々税理士にとっては大変身につまされることです・・・。
一方で前澤氏ほどのハイパー金持ちにとっては、約1億円とはいえ全体のボリュームからしたら相当に小さな割合なのでしょうね。
多数あった売買のうち一つくらい、そういうことが起こり得るかもしれません。
僕がヤフオクやらメルカリやらで生活用品を1,000円で売っても、きっと数カ月後には忘れてるんじゃないかなと・・・スケール小さすぎて泣きそうですが。
いずれにしても、指摘に従い修正申告したとのことです。
まとめ
前澤友作氏の資産会社申告漏れについて解説しました。
以外の感想が無いのが正直なところです。
いかにも悪意がなさそうですし、指摘に従い修正申告しているわけですし。
この記事を書いたひと
-
税理士・1級FP。個人事業主や中小法人の税金のお悩みを解決したり、会計処理・税務申告の代行をやったりしています。 freeeが超得意で導入支援の実績多数。一般の方向けのやさしい税務解説記事を書けるのが強みです。詳しいプロフィールはこちら。
記事執筆・監修実績はこちら。
最新記事一覧
- 2024年10月1日-税理士業のこと不動産の税に関する記事を監修しました
- 2024年8月26日-税理士業のこと税理士の探し方に関する記事を監修しました
- 2024年6月14日-税理士業のこと経理職への転職に関する記事を監修しました
- 2024年4月22日-税理士業のこと所得税と住民税の税務記事を監修しました